自宅から車で50分で行ける伊万里市民図書館に昨年の冬から月に1,2度通い始めた。
7月19日、伊万里市民図書館のこの年の第1回目の図書館協議会が開かれている日、館内の本棚の間を歩いていたら、糸島市からやってきていた知人の女性に出会った。
今日は友人と二人できたという彼女からいきなり問いかけられた。
「糸島市の図書館と伊万里の図書館はどうしてこんなに違うのですか」
「図書館は何をするところか、それぞれの行政での考え方、また市民の中での考え方の
違いによるのでは」
思わず口をついてでた言葉だが、帰宅してからも彼女の問いが頭から離れなかった。
人が図書館のことを話題にする時、それぞれがそれまでに出会い利用してきた図書館、またはあまり利用してこなかった図書館を通して、その人の図書館のイメージ(図書館は何をするところか)を持って語りあう場にしばしば立ち会ってきた。
時には、それぞれが全くちがう図書館のイメージで図書館のことを語っていて、しかも互いの図書館のイメージが異なっていることに気がつかないでいると思われることもしばしばだった。他の町村や市の図書館もそれが図書館であれば、人口による規模の大小はあれそんなに違うものではないと少なからぬ人が考えているように思われた。
しかし、日本の図書館(市町村立の公立図書館)に関して言えば、図書館の在りよう(自治体の中での図書館の位置づけ、図書館長を含めた職員体制、図書費などの予算、
地域のどこに住んでいてもだれでも利用できる分館や移動図書館による全域サービス(網)、図書館利用にハンディキャップのある人へのサービス、図書館サービスの内容などは、これを同じ図書館といえるのかと思える程、とても大きな違いがあり、それは市民だれもが受けるべき図書館サービスの実に大きな格差となって現れている。
伊万里市 人口55,300人 図書館1 延床面積4,375㎡ 移動図書館2台(幼稚
園、保育園、小学校、老健施設など69ヵ所を2週間に1回巡回)
職員6(うち司書4)嘱託8(7)臨時4(0)、資料費1,799万円
市民1人当たり年間貸出点数 8.1点 貸出点数449,636点 【平成 29年度】
糸島市 人口10万人 図書館3 延床面積3,402㎡(本館1,659 二丈館1,090
志摩館720㎡)サービスポイント2(平成26年3月・移動図書館廃止)
職員4(うち司書3) 嘱託・臨時23(23)、資料費1,773万円
購入雑誌タイトル数 163 【以上、平成27年度】
市民1人当たり年間貸出点数 5.4点 貸出点数542,322点 【平成28年度】
滋賀県東近江市 人口11万5千人 図書館数7 自動車図書館2台
延床面積10,141㎡ (八日市2,289㎡.永源寺1,500.湖東1,734.五個荘525.能登川3,065.蒲生860.愛東168㎡)
正規・専任職員24(うち司書24).非常勤・臨時21.資料費5,486万円,購入雑誌タイトル数794
市民1人当たり年間貸出点数 8.5点. 貸出点数981,000点【㍻27年度
※ 伊万里市も東近江市も図書館は教育委員会の中の「課」の位置づけに対し、
糸島市では教育委員会の文化課の中の1係の位置づけ。課と係では、予算や職員計画、
市民の「だれでも」「どこでも」(市内のどこに住んでいても)、(市民の求める資料や情報を)「なんでも」提供するための長期的なサービス計画の立案、策定の責任者は文化課の課長となり、図書館長は嘱託でもあり、それらの権限をもたない。図書館が1係では、すべての市民の生涯にわたる自己学習を保障する図書館づくりは困難だろう。
図書館の位置づけは、その市や教育委員会が、本来「一人一人の市民の自立と成熟」に資する図書館をどのように考えているかを如実に示している。
「伊万里市の図書館と糸島市の図書館は何がちがいますか。どこが違いますか」
数日後、日を改めて私に問いかけた彼女に私から聞いてみた。ちなみに彼女は福島の原発事故後、関東から糸島市に家族で移り住み、小学生と就学前の子ども、二人の母親でもある。テレビのない家庭で子どもたちはとても本好きとのこと。
伊万里の図書館について
・蔵書がぜんぜんちがう
その量と種類が。普段、糸島市で利用している二丈館は古い本がとても多い。い。
・本の展示の仕方、テーマごとにほんとうにたくさんの展示
・絵本が子どもの目線にあって、子どもが自分で選べる。 たくさんの絵本が子どもの
目線に並んでいて、子どもたちがゆっくりと本棚の間を歩いて、すぐに手にとれる。
二丈館の絵本の本棚は、表紙見せの絵本は高い所にあって子どもには見えない。子ど
もの手が届くのは背表紙が見える本棚だけなので、子どもが自分で本を選びにくい。旧
町役場を改装して新しく作られたのに、どうして小さな子どもに利用しにくいこんな本
棚にしてしまったのでしょうか。
(※二丈館の絵本の本棚 3段の本棚に、絵本がさしこまれていて、4段目が表紙
が見える本棚、4段目の高さは120センチで、子どもにはまったく見えない。)
・建物のつくりに愛情を感じる。
本棚にも感心、表紙みせをして置いている本をとったら、伊万里焼きのプレートが現れ
て驚いた。何気ない工夫があちこちに。
糸島にはクラフトや木工をやっている人がたくさんいるので、そうした人の力をとりい
れたらいい。糸島は無機質で事務的な感じになっている。
・図書館の中に喫茶スペースがある。飲食できる場があると1日、図書館で過ごせる。
・パッチチワークをするグループの部屋があることに感心!
みんなだれでも集まれる場所がある。図書館の前に公園があることも。
いろんなことがつながっているといい。
・子どものトイレもよく考えているなあと。
・文化的なことは心の栄養で、子どもにも大人にも必要です。
・伊万里の図書館は建物も本棚も、そしてたくさん本が並んでいてワクワクする所です。
一緒に伊万里の図書館にきたもう一人の方にも、図書館の印象を聞きました。
・こんな図書館が(住んでいる町に)あったら、どんなに豊かなことか。
・図書館の中を歩いてても 向こうから いっぱい本が呼びかけてきて。
本を手にしたら、こんなところに椅子がある! (さあ、ここでというように)
・ラビリンスだ!(思わぬものに出会う迷路、あるいは、こんなものに出会いたかった
ワクワクする迷路)
・アートコーナー 、すごい。
・空気感がちがう。
・原発に関連する図書や雑誌の常設の特設コーナーに感銘。
新聞記事や多くの関連図書が面だしで。(表紙見せで)
玄海原発から伊万里市まで何キロ圏かが表示された地図がいつも見えるように展示
されている。
・子ども目線の図書館。
・図書館が心あるのを感じる。
一人ひとりの見方、感じ方、その奥深さに感銘を受ける。またそのような図書館との奥
深い出会いを可能とする図書館が糸島市の身近にあることのありがたさを
ここまで書いて、前川恒雄さんの言葉が頭に浮かんだ。
「4.専門職
図書館のすべてにわたって、いい図書館を作ることはいい図書館を見ることから出発する。いい図書館には必ず優れた職員、有能な図書館長がいる。そのことが分かれば、図書館を作るときに何をすべきかがわかるのは自然な筋道である。図書館を設置するために見学にきた人々に、こんな館長こんな司書がほしいいと思わせた人々の力が、滋賀県のとしょかんをつくり、たの府県の館長人事にも影響を与えたのである。結局すべては人である。」
(「図書館発展の方向ー滋賀県の場合」) 』
【『滋賀の図書館 '93』 滋賀県公共図書館協議会 1994(平成6)】
( 前川恒雄さん:1965年、東京の日野市で1台の移動図書館車から日野市立図書館を
始め、分館7館を順次建ててから中央館をつくり、市内「どこでも」「だれでも」利用できる全域サービスを実現する。市民の求める資料に「なんでも」応えるリクエスト・サービ
スを日本で初めて行う。
1980年、滋賀県立図書館長となり「県立図書館とは何をするところか」を実践によって明らかにするとともに、滋賀県内の市や町の図書館の振興に力を尽くす。1991年3月、県立図書館退職後、甲南大学教授)
まだ、伊万里市民図書館に行ったことがない方は、一度でかけてみませんか。
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