2007年から糸島に移り住み、思いを同じくする人たちと「としょかんのたね・二丈」を始め、志摩地区の「みんなの図書館つくろう会」、二丈深江地区の「糸島くらしと図書館」の人たちと共に、糸島のより良い図書館づくりを目指して活動してきた。「糸島の図書館は今、どうなっているのか」、糸島図書館事情を発信し、市民と共に育つ糸島市の図書館を考えていきたい。糸島市の図書館のあり方と深く関わる、隣接する福岡市や県内外の図書館についても共に考えていきます。
2022年12月5日月曜日
〈図書館がある〉ってどういうことか No.105
何度も菅原峻(すがわら たかし)さんの言葉にたちかえる。そのいくつかを。
1.〈図書館がある〉とは、〈図書館の看板の下がった建物がまちにある〉ことではな
く、そのまちの隅々までサービスが行きわたっていて、いつでも、誰でも、どこに住んでいて
も、どんな資料でも利用できる、その態勢がととのっていることをいう。(15頁)
2. まちに図書館があるというのは、どこに住んでいても、そこで役に立つサービスを
手にすることができる、納税者にふさわしい利益を得、あるいは還元を受けることができるこ
とでなければならない。図書館に必要な資料が揃い、自由に利用でき、職員のサービスをしっ
かり得られなければ、まちに図書館があることにはならない。(173頁)
3.本は買って読むもの、日本人は借りるよりも自分のまわりに本を置きたがる、そのような考えが何の根拠もないものであることは、多くの図書館の実績が示している。その実績を生むのが十分な図書費であり、地域地域を覆うサービス網であり、職員体制であることも、あらためていうまでもないことだ。(175頁)
【福岡市の中学校区設置率16%(身近に図書館があるためには中学校区に1館必
要)、政令都市20市の中で最下位の利用度、市民1人当たり年間貸出点数(貸出密度)2.6点。
第1位のさいたま市は、中学校区設置率44%、図書館数25館+移動図書館(BM)1台、
貸出密度7.5点。図書館数で約2倍、貸出密度(利用度)で約3倍、福岡市にはBMもない】
―2018(平成30)年度(コロナ禍前)の統計(『日本の図書館2019』日本図書館協会)―
《福岡市の利用度が極めて低いのは、市民の読書に対する関心が低いからではなく、
市民の身近に、市民の生活圏に図書館がないから。》
A. 《憲法第26条
①ひとはみな平等に教育を受ける権利があるそれぞれ能力に応じた教育を法律は用意する。
②すべての親は自分が育てている子供たちに、法律が用意する※普通教育を受けさせなけれ
ばならない。このような義務教育は無料でなければならない。
(※普通教育=職業にかかわりなく一般共通に必要な知識を与え、教養を育てる教育。)
【『憲法なんて知らないよ』池澤夏樹 集英社文庫 2005年4月25日 第1刷】
➡だから、小学校、中学校は住民の生活圏にある。生活圏になければならない。
B. 公立図書館は、子どもたちを含めて、すべての人の生涯にわたる学び、教育を保障する機関である。学校教育と図書館は、すべてのひとが平等に教育を受ける権利を保障する2本の柱である。「図書館法第17条 公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。」と「無料の原則」を定めているのは、このこと、「すべての人に教育を受ける権利を」を保障するためである。
C.能登川町立図書館設置条例
4.図書館長は、そのまちの図書館サービスの最高責任者である。図書館の大小、自治体の大小を問わない。住民にどのような図書館サービスをとどけるのか。これからサービスをどう発展させていくのか。それを考え計画を立てる。司書職員を指揮し、相談にのり、業務を滞りなくすすめていく、それが図書館長である。
ふたたびデンマークの図書館法を引くと、その第二条で「図書館長は、他の司書職員の援けを得て資料を選択し、自治体に対してその責を負う」といっている。
住民が必要とする、役に立つ資料群の構成が、図書館長の極めて大切な責務であることを言っているのだ。深い教養、資料についての広範な知識、選択の理論と技法、そういったものを身につけていないで、どうして図書館長が務まるだろうか。(33頁)
(『図書館の明日を拓く』菅原峻 晶文社 1999年10月30日初版)から。
5.「図書館にはDNAが大事なのです」
「Ⅾとはディレクター=館長。図書館とはまったくゆかりのないところから異動で来た、本
に何の興味もない館長か、それとも専門の教育を受けて、本という海を航海する船=図書館を
しっかりと操舵している館長か。大きな違いですね」
NはNEW BOOK=新しい本を指す。「新しく内容豊かな図書をきちんと購入し続けてい
るか」(予算、資料費の問題)
AはATTRACT=魅力。「中身の伴った資格を持ち、利用者の役に立つ魅力的な専門職員
がいるかどうかです」
6.日本の図書館は3タイプに分けられる。
①図書館という看板の下がった役所(全体の半分以上。)
②無料の貸本屋(残りの70~80%)
③本物の図書館(全体のわずか5%、しかも、当初③であっても、①②化していくケースが少
なくない。)
「図書館はひよわな存在です。たとえすばらしい専門職館長やスタッフがいても、異動や退職などで元の木阿弥(もくあみ)になってしまうことが多い。行政の中での教育委員会の位置づけでも、日の当たる場所とはいえません。」
〈では、本物の図書館が本物であり続けるには、そして本物でない図書館が本物になるには、どうすればいいのか。〉
「自分たちの町の図書館の現状を認識することですね。とにかく、どんどん図書館を利用することから始める。そして、図書館のDNAを知る。ここから自分たちにとってのあるべき図書館の姿が見えてきます。僕の持論は、図書館がよくなるのも悪くなるのも住民次第、なんですよ」
【⑤⑥は『アミューズ』毎日新聞社 2000年1月26日号、31∼32頁。図書館の特集号で、菅原さんへのインタビュー記事。同誌による菅原さんのプロフィールを以下に】
「すがわら・たかし 1926年北海道生まれ。社団法人日本図書館協会に25年間勤務。78年3月図書館計画施設研究所を創設。日本各地の図書館づくりにかかわる。全国の図書館づくりの得がたい相談役として活動を続けている。持論は「図書館は住民次第」。著書に「新版これからの図書館」「図書館の明日をひらく」ほか。訳書に「公共図書館の計画とデザイン」など多数。】
追記。2011年6月24日逝去。図書館の現場を日本でもっとも広く深く歩かれた。どんなに内容豊かな図書館の計画書をつくっても、計画書の目指した図書館にならないかを、もっとも多く体験されたとも言えるのではないだろうか。図書館計画施設研究所が基本計画を策定した図書館は100館を越えた。1981(昭和56)年に全国の図書館運動に大きな力となった『としょかん」を創刊、菅原さんが亡くなったあとの2015年(平成27年)まで、24年間間にわたって、100号の発行が行われた。
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